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2013年10月 アーカイブ

2013年10月01日

島根日記:平居先生

2013年夏。島根に行く。仕事のためなので、ゆっくり観光をする時間がとれるわけではないのだが、いつになく地霊に呼ばれている気がした。僕は別に「どこそこへ行くからには絶対ここだけは押さえなきゃ」というタイプの人間ではない。むしろ、適当な温泉とビールさえあれば満足したりするのであるが、今回は少し違う。やはり地霊に呼ばれていたとしか言い様がない。

電車の方が安いが、それだと会議の開始時間に間に合わない。そう思って飛行機にしたのだったが、それが間違っていたのは、乗り込んで直ぐにわかった。「天候不良の為、伊丹空港に引き返す可能性があります」のアナウンス。電車ならそうはなるまい。しかし乗り込んでしまえば、連れ去られるまま。そうなればそれで諦めるしかないな。プロペラがぶろぶろと廻っている。それにつれて横の座席男の腹周り脂肪が微動しているのがポロシャツの上から見て取れる。結局どんよりとした空ではあるけれども、引き返すことなく、出雲空港に到着する。

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Photo:鳥居

伊丹から降り立った客の中では、出雲神社へのバスを待つのは僕だけだった。その後の東京からの便には、大勢の参拝客が居る。バス一台分、見る見るうちに人だかりができる、正統派観光客、という言葉が頭に浮かぶ。直行便の運転手はガイドを兼ねており、ところどころで案内をするが、楽しそうには、やらない。どうしても言わなければならないことがある、という感じで言葉を絞り出している。参道の入り口にあたる巨大な白鳥居に書かれた出雲大社、の文字板は、小さく見えるが実は畳六畳分もあるという情報は、もっと上手に言えばサプライズにもなりそうなものだが、ぼそぼそっと差し出される。それがどことなくこの地の人々の表情のアベレージを予め教えてくれているのだ、と勝手に解釈してみる。着くのが待ち遠しいのだ。

本殿に一番近い入り口までバスで行くつもりだったが、「一畑電車の駅に止まります」というアナウンスを聞く。コインロッカーもございますが、空き状況は把握しておりません、と珍しく良いことを言ってくれる。引きずるようなこのバッグを持って、どうやって見て回ろうかと気が滅入っていたので救われたような気持ちになる。バスの先頭座席に座っていたので、あたふたと降りる。コインロッカーを確認すると、一〇〇円のものから二〇〇円、三〇〇円、五〇〇円といろいろな種類のものがあって、ずいぶんと助かる。こんなに大きなカバンなのに、二〇〇円のロッカーに収まる。

「え?あ、レンタル自転車ですか?」という声が聞こえたので、ふと見ると駅に何台か並んでいる。年輩の方が駅員に申し出ているのだ。「あ。レンタサイクルあるんや」これ幸いと借りると、五〇〇円なのに電動アシストつき。WHY?と思ったが、借りる。とても楽。これなら風のように素速く、地霊の召喚に応えられそうだ。参道を少しゆくと、電動アシストの意味が分かってきた。坂道なのだ。どこも彼処も。アシストなしでいけないわけではないが、それならそれでサイクリングだ。電動の感動を楽しみながら風に吹かれた。

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Photo:本殿

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Photo:注連縄

本殿に着くと異常に太い注連縄があり、これをみるだけでもここに来た甲斐があると思った。そして何よりも空気が澄んでいる。神社の空気は多くが静かさの中にあるが、中でも出雲大社のそれは絶品だと感じる。澄んでいるというより止まっている感じがする。来て良かったと思う。なぜならば、会議が始まるまでの数時間をどう過ごすか困っていたのだ。電車では間に合わないが、飛行機では早すぎる。しかし、そういう次元を遥かに超えて
来るべきところに来たという確信があった。

駅に戻り、可愛い一畑電車の窓から宍道湖を見る。三日前の雨の加減か、波が高く色が濁っている。しかし、見渡す限り何も見えず、その広さを堪能する。この広い宍道湖のどこに蜆たちが潜んでいるのだろうかなどと思う。うじゃうじゃ居すぎて夢に見そうなので、細部に渡るイメージがわき上がってくる前に、海水浴で耳に入った水を振り切るように頭を左右に強く続けて何回も振る。ミニスカートを穿いたOLらしい二人連れが、見ないようなふりをしてこちらを見ている。松江しんじ湖ま温泉駅に着く。そこからタクシーで会議会場のホテルに向かい、その後懇親会に出席した。宍道湖の蜆料をたらふく食べた。

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Photo:松江城洋館

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Photo:松江城

会議が10時前から始まるので、それまでに、見れるところは見ておこうと、朝。歩く。松江城が美しい。お堀の中にぼつ然とひとりいる感じが可愛らしく見える。どことなく空が曇っている。天守閣に向かってゆくのに、傘なしでは不安だなと思っていたら、お堀遊覧船乗り場に「シェア傘」というのがあるのを見つけて拝借する。昔、近鉄電車の最寄り駅に「善意の傘」というのが設置されていて急な雨などに重宝したのだが、いつからな見かけなくなった。善意が通じない時代になったのだと思っていたが、この松江にはまだ残っている。昇ってゆく途中に、美しい洋館立ての建築物を認める。

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Photo:小泉八雲像

7:30からだと勘違いしていた天守閣は、開門までにまだ一時間あった。それで予定を変更して、小泉八雲記念館まで歩く。徒歩で10分ほどの距離である。そこも同じ時間になるまでは開かないので、さっき傘を借りたのとは別の、三つあるうち一番北側の船着き場を目指して歩いてみた。夏休みだろうに制服姿の女子高生が自転車で通り過ぎる。船着場で詳細を読むと、朝の九時からそれに乗って、会議が始まる時間にちょうどホテルに戻れる計算に気がつき嬉しくなる。船頭らしきおじさんに尋ねると、平日は混むということはまずないらしい。先に小泉八雲快感記念館を見て戻ることにする。

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Photo:小泉八雲の机

記念館、はよく記念館にあるように、ただ記念館以上の何ものでもありはしなかった。受付の女性が可愛かったが、それが何だというのだ。しかし、その隣にある旧宅は非常に興味深いものがあった。中に入ると、非常に高い机があった。外国人だからね、と思ったが、彼は慎重が非常に低かったのである。彼は、目が非常に悪かった。それで、間近に書物を見るためにそんな机を使ったのだという。目を机にすり付けるようにして本を読んだり文字を書いたりする小泉八雲の姿がそこに見えた。八雲は日本の庭という文章を書いているが、その旧家の二つの庭に関する記述が抜粋され、それぞれの庭の見える場所に張り出されていた。

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Photo:小泉八雲旧宅の庭

『ダーリンは外国人』という漫画を読みかけにしたまま家を出てきたのだったが、その登場人物の外国人夫が、日本の風物のいろんなものを愛で親しんでいるのを面白く読んでいた。だから八雲の着目が、それと重なってとても興味深かった。彼は美しい文章で、自らの庭の様子を以下のように記す。

そこには苔の厚く蒸した大きな岩があり、水を入れて置く奇妙な格好の石鉢があり、年月のため緑になった石燈籠があり、また城の屋根の尖った角に見るようなーその鼻を地に付け、その尾を空に立てたシャチホコが一つある。

時代をとわず、異国に住むと、その場その場のものが珍しく感じるんだろう。こんな小さな庭の池や植え込みなどに、ひとつひとつ感動するなどということは日本に住んでいる人間にはなかなかないことだ。

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Photo:女性の船頭さん

八雲館を出て船着き場へ向かう。団体客がいくらかいるが、それは事前申し込みの人々のようで、僕だけが当日ここに来ているのだ。「飛び込みさんおひとりね~」と声が飛び交っている。舟頭さん(というか、モーター付きなので「操縦士」とでもいうのだろうか)は年輩の女性の方だ。橋の下を通る時、舟屋根を下げるからと何度か練習する。結構、ずずず、と下がってきて面白い。子供などは大喜びするだろう。かるがもがここ数日親子連れでよく泳いでいることや、外来種の亀がふえていること、すっぽんはとんと見なくなったこと、などいろいろ教えてくれる。普段ならマイクを通しての解説なのだろうけれど、世間話のような趣がある。この乗舟券は一日乗車券になっていて、今日中ならどこへでもどこからでも乗れるのだという。

「吉田くんプロデュース」の八雲特集をちらりと見て帰路についた。「秘密結社の爪」の吉田くんのアニメは毒があって好きだけれど、島根で見るとあまりにも違和感があった。島根にはもっと落ち着いたイメージを僕は持っていたし、事実町並みも全体の佇まいもそれを裏切らなかった。だから、というわけではないが、島根で吉田くんをあまり見たくはなかった。特に最近有名になってきていて、いろんなところで見る。ここにもある。あそこにもある。あ、もうそうなるとマクドナルドやスタバやケンタッキーフライドチキンみたいな感じがする。そういえば、島根では新しく出来たスタバの列がまだ続いているという。他の県にあるものと同じものない風景。それを見ることは思う以上に難しくなってきている。

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Photo:川への階段

JR松江駅に向かいながら、こんなに慌ただしく、ではなくのんびり島根を歩いている白日夢のような妄想を見た。そこではお堀端の船に何度も何度も乗ってみたり、宍道湖に足を浸けたり僕はしているのだった。また僕はここへ足を運ぶことがあるだろうか。

2013年10月02日

鳥取日記:平居先生

この夏は、島根の続きで鳥取に行った。鳥取といえば砂丘、というわけで早速砂丘だけをバスで目指す。暑い。こんな日に砂丘に行くのは自殺ものだと笑われる。砂丘直前のオアシス、以前に行ったときにはなかった「砂の美術館」に立ち寄る。涼しくて泣けてくる。そしてとても面白い。砂だけで作られたというのが信じられない。どんな美術品でもいずれ朽ちるのだが、砂で作られていると脆さが前面に押し出されてきて、それが独特の物悲しさを作品に添える。作品のイデアの永遠性と、素材の瞬間性がシニカルな形で融合している。

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Photo:砂の美術館

アクエリアスを一本補給して、いよいよ灼熱の砂丘に立つ。中学の修学旅行で行って、友人たちといっしょに写真を撮った。その写真が、一年後遺影として使われることになるなんて思いもよらなかった。そんな思い出に繋がる場所なのに砂丘は乾ききって晴れ渡って、暑過ぎて、数頭いる駱駝がみな悉くへばっている。が、都市部の暑さとは違う気がする。意外なほど風が吹いた。真っ青な空とひっついたような海が、この砂ずなの向こう側に広がっているんだから、それも当然だと思う。

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Photo:砂丘

駱駝が休憩中で乗れなかったので、諦めて砂丘商店街の「らくだ屋」にゆく。ユニークな駱駝グッズをそろえている。水木しげるロードでも、気が変になるくらい鬼太郎グッズの土産物屋が1キロ近くも続いていたが、ここにも駱駝が大挙して押し寄せている。物量作戦に出るのは、鳥取の県民性?お店のペットのわんちゃんも、廊下で熔けている。「だれ犬くん」と名前をつけた。

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Photo:だれ犬くん

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Photo:らくだ屋

ある土地を繰り返し訪れるとは、何だろう。僕は「砂丘を見に行った」わけではなかったのだろう。それを感じに行ったのだ。あるいは、まだそこにあることをこの目で確かめに行ったと言ってもいいかもしれない。砂丘はもちろん、まだちゃんとそこにあった。

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